こんにちは、料理家の野上優佳子です。
それぞれのご家庭で、1年の中でもコレは欠かせないといった年中行事があると思います。
我が家の場合は、酉の市(とりのいち)がそのひとつ。
毎年お詣りにでかけ、前年買った熊手を納めて新たな熊手を購入するのが恒例となっています。
酉の市とは、11月の酉の日に鷲(おおとり)神社で開かれる市のこと。
武神である日本武尊(やまとたけるのみこと)にゆかりのある神社で、武運長久(ぶうんちょうきゅう・勝運や武人としての運命が続くこと)を祈る祭礼が起源とも言われています。
次第に「とり」が「とりこむ」に通ずることから、開運や商売繁盛のご利益があるいうことで参詣(さんけい)が人気となり、福をかき寄せる縁起物の熊手に七福神や米俵などを乗せた物が賑やかに売られるようになりました
酉の市は江戸時代の頃から大盛況だったらしく、浮世絵にもその様子が数多く登場しています。
明治以降も人気は衰えず、樋口一葉の『たけくらべ』には「にぎわいがすさまじく天柱がくだけ地維(ちい・大地のこと)が欠けると思うような笑い声とどよめきが聞こえる」と、酉の市のたいへん賑やかなことが分かる一節が書かれているのです
ちなみに酉の日とは、365日(366日)を干支に当てはめ数える昔の暦です。
中でも11月にある最初の酉の日を一の酉、次を二の酉と呼んでおり、2015年は一の酉(5日)、二の酉(17日)、三の酉(29日)です。
この酉の市では、たくさんの屋台が並び、夜を華やかにしています。
中でも酉の市と言えば、「ヤツガシラ(八頭)」と「切り山椒(きりさんしょう)」の屋台ですね
「ヤツガシラ」の屋台は今ではずいぶん数が少なくなりましたが、江戸時代では酉の市に馴染みの深い食材として屋台で売られていました。
ヤツガシラは別名・頭の芋と呼ばれる里芋の仲間で、ひとつの芋からたくさんの小芋ができることから、出世や子宝のご利益ありと人気の食材だったそうです。
一方、「切り山椒」は、幕末頃から酉の市の屋台で売られるようになったお菓子です。
「きりざんしょ」とも言い、山椒の粉を上新粉に砂糖と一緒にまぜて蒸したものを、ついて短冊形に切った餅菓子です。
もともと山椒はその強い芳香より、中国では魔除けになるとされてきました。
また一度にたくさんの実を付けることから子孫繁栄につながること、葉や花、実、幹、樹皮に至るまで、すべて利用することができるため捨てるところがない(有益である)ことから縁起の良いものとされ、酉の市で売られるようになりました
切り山椒を縁起菓子とするのは、実は酉の市だけではありません。
山形県鶴岡市では、観音様のお歳夜の12月17日にだるま市が開かれますが、この地域では山椒の木を鬼門の位置に植えて厄除けとするという風習があることから、切り山椒が縁起菓子として売られます。
皆さんも見かけたら、ぜひ食べてみて下さいね。
さて今回は、山椒のご利益にあやかって、実山椒を使った佃煮をご紹介します。
ご飯のお供にも、日本酒のつまみにもなる大人の味わいですよ
だしを取ったあとの昆布でできる佃煮ですので、ぜひお試し下さい