こんにちは、料理家の野上優佳子です。
私は、暇があれば5分でも読書したいほど本好き
文中に登場する食事の場面の食卓や、エッセイや紀行文の中で紹介される現地の料理
など、文章だけで説明されているのに、おいしそうでたまらなくて
心奪われることがしばしばあります。
織田作之助氏の『夫婦善哉』という小説では、主人公の柳吉と蝶子夫婦は食道楽で大阪のミナミに実在する飲食店が数多く登場することで有名です。
浪速の坊ちゃん育ちでダメ亭主である柳吉が、蝶子が芸者として座敷に出ている間に暇に任せて家で昆布の山椒煮を自分で炊く場面があります。
上等な昆布を細切りにして山椒の実と一緒に鍋に入れ、濃い口醬油をたっぷり使って、松炭のとろ火で、家から出ずに鍋につきっきりで火種を切らさず、二昼夜煮詰める、という手の込みよう。
この味は柳吉曰く「戎橋の【おぐらや】で売っている山椒昆布と同じ位のうまさになる」のだと。
【おぐらや】とは嘉永元年(1848年)から続く実在の大阪の老舗昆布専門店。
子どもの頃に読んだこの場面が忘れられず、大阪を初めて訪れたときに私が真っ先に購入したのは言うまでもありません。
この小説にかかわらず、これが実在するお店なら良いのですが、描かれる食事の場面が、どこかの家庭料理だったり、遠い国の旅先の経験だったり、遠い歴史や空想の世界になると、食べたくてもなかなかその味にたどり着けずに思いは募るばかり。
そうなると、自分で作るしかありません
また、文筆家の玉村豊男氏の『料理の四面体』というエッセイでは、冒頭にアルジェリア式羊肉シチューなる物が登場します。
筆者が旅先で出会った料理で、おんぼろの鍋にどぼどぼとオリーブ油を注いで熱し、その中にたっぷりのニンニク、骨付き羊肉、たっぷりの赤唐辛子粉、完熟トマト、じゃがいもを入れた煮込み料理。
その描写が垂涎ものなのですが、しかしアルジェリアは遠く、またアルジェリア料理店も見つからず……
しかし、どうしても食べたくて、何度も何度も試作するようになりました
そして、ついに私の得意料理のひとつになってしまいました
実はこんな風に、読んで心奪われ作り続けるうちに、我が家の定番家庭料理に変貌してしまった物がたくさんあります。
これもまた味覚の出会いですね
と言う訳で、今日は羊肉の煮込み料理をご紹介します。
スパイスの豊かなうまみを効かせました。
煮込むだけで簡単、でも絶品ですのでぜひお試しを